【考察】「けいおん!」のその先を描く物語としての「たまこラブストーリー」

■「私たち女子大生だよ、大人だよ!」→「大人になる、ということ」

「けいおん!」ブログである本ブログがなぜ「たまこラ」を取り上げるのか
それは自分が山田尚子監督のフリークであることは無論として、前回前々回の記事で述べたように、自分は「たまこラブストーリー」が、「映画けいおん!」で描かれた少女たちの青春とモラトリアムの終わりの、さらにその先の物語を描く、ある意味で延長線にある作品だと予感している(というよりほぼ確信に近い)からなのです

くどいようですが、山田監督は「映画けいおん!」でのラストシーン、原作にある「大人だよ!」というセリフを唯に言わせなかった。これはとても印象的な改変で、さすがに1度目の観劇から気がついていたことです。だから自分は「ああ、これは彼女たちが大人になる物語ではないのだ」と思いました。「けいおん!」は、「彼女たちが少しづつ、わずかに成長して大人に近づいていく物語」ではあっても「彼女たちが大人になりきってしまう物語」ではなかったわけです

しかし現在、公開中の「たまこラブストーリー」PV第二弾では、いずれのバージョンでも最後の方に「大人になる、ということ」というキャッチコピーが登場します。これはまさに想定通り、というか我が意を得たりというところです
そう。「たまこラブストーリー」は「けいおん!」とは違って「(少女たちが)大人になる物語」なのです! 今度描こうとしているのは「空の向こう」ではなく「宇宙の彼方」。故に、「たまこラ」には「山田監督は「けいおん!」を一歩越えたものを描こうとしている!」という期待と興奮を禁じ得ないわけです
そしてその必須の?要素として、「けいおん!」ではほぼ作中から排除していた「恋愛」というテーマを設定している…あるいは、恋愛が人を大人にするのだ、と位置づけているのでは…という推察をしているわけです

■タンポポとコーヒー。相反するふたつの暗示


映画PV2にはたまこのセリフが入るバージョンともち蔵のバージョンがありますが、そのいずれにも「大人になる、ということ」というキャッチコピーは最後の方に登場します。そしてそれはそれぞれ「タンポポ」「コーヒー」の絵にインポーズしています

「けいおん!」以来、山田監督は作中に登場させる花に、その場面やエピソードの主題、人物に関わる花言葉をもつ花を使ってきました。「タンポポ」の花言葉には「真実の愛」「愛の神託」そして「別れ」という意味があります。ラブストーリーというテーマにふさわしく、たまこにラブが訪れることを暗喩しているという読解が素直で、まさにふさわしいアイテムといえるのですが、一方で相反する「別れ」というネガティブな(?)意味が込められていることに注目させられます
また一方、「コーヒー」については、「たまこまーけっと」本編第一話、第三話で印象的な描写がされています。第一話では、ストレートコーヒーを飲んでたまこは苦いといい、それに対してマスターはこういいました。「コーヒーは苦い。でもそれは、生きる苦さを味わいに変えるため」といい、牛乳を差し出し、それによってたまこはコーヒーを堪能します。第三話では、ストレートコーヒーを飲んだ史織が苦いといい、たまこが彼女のコーヒーカップに牛乳を注いで「苦いよね」とほほ笑みかけ、ふたりは友人になったことを確認しました
このふたつのシーンからは、コーヒーが「生きる苦さ」を暗喩するアイテムとして(一方、他者から差し出されるミルクは、他人との関係性が生きる苦さを味わいに変えることを暗喩するアイテムとして)位置づけられている事が指摘できます

つまり、「たんぽぽ」と「コーヒー」のいずれもが、人生の苦さと味わい、辛さと幸せ、相反するものを共にふたつ、寓意しているわけです。そこに「大人になる、ということ」というコピーが重ねられる意図は明白です。山田監督は「大人になる、ということは、喜びと痛み、幸せと辛さ、両方を経験すること」というメッセージを込めているのは、ほぼ間違いない。そしてそれはおそらく、メインテーマである「恋愛」によってもたらされるものなのでしょう

■「私も変わらないといけないのかな?」


たまこバージョンのPV2でたまこのセリフがほのめかす「変化」は、「たまこまーけっと」の11話、12話のお妃様騒動のエピソードにおいても主題として描かれました。ですが、「たまこまーけっと」においては、たまこ個人のささやかな変化は、彼女を育んだ共同体や大きな時間の蓄積の中に飲み込まれるものでした。当時の自分の感想記事を引用します。

果たして、世界の象徴、御柱であるたまこは「変わる」のか、もしかしたら彼女に恋愛が訪れるのか?というところが個人的に最終回の見どころだったわけですが…
結果としては、変わりませんでした
ただし、これを単に「変わらなかった」というのは短絡的な理解だと思います
それは、彼女の長い独白によって語られたように、彼女が変わらなかったのは、彼女が彼女の生まれ育った環境、人々、出来事…つまり、彼女の根ともいうべき、時の蓄積に裏打ちされた世界との絆が理由だったからです。
この作品は、「今」の価値を描いた「けいおん!」よりも、長いスパンの時間、広い世界の出来事に物語の焦点を置いていて、その長大さ、広大さの中で、今、その時の「変化」をただの「蓄積」として吸収していく、そういう「世界」の強靭さ、そして世界の優しさを描いていたと思います。人が生まれる前の過去から積み重ねられてきたもの、そして今も積み重ねられていくものが、全て「あなたの世界」に回収されていく、この作品は、そういう価値観で描かれていた。


つまるところ「たまこまーけっと」は、そのタイトルに違わず、まーけっと=商店街というたまこを育んだ共同体、世界と、たまこの絆を描いた作品だったと言えます
しかし今回は「たまこラブストーリー」。たまこは変わるし、そこにはコーヒーが暗喩する「人生の苦さ」あるいはタンポポが示唆する「別れ」があるのでしょう

ここまでの情報をまとめると「恋愛が彼女と彼女の愛する共同体との絆を引き裂く痛みになる一方で、たまこに幸福や喜びをもたらすものでもあり、そうした相反する経験を経て、彼女は大人になる」(逆ではない。なぜならマスターやたまこが生きる苦さをミルク=人との出会いによって味わいに変えているから)という予測が、論理的に導かれるのですが…それはまだ突き詰めないでおきます。この推察には、山田監督が考える「"大人"とはなにか?」「なにをもって"大人になった"とするのか?」というもっとも重要な疑問に対する回答が欠けている。その答えは、現在ある情報だけでは、ハッキリとはわかりません…そして本作で本当に知りたいのは、実はその部分だったりするのですよねw

とりあえず今回はそんなところで

テーマ : たまこまーけっと
ジャンル : アニメ・コミック

No title

>nanashiさん
コメントありがとうございます。
自分の読みは情報に基づいた論理的推論の積み重ねなので…まあここまではいけてるみたいですね(笑)

そうですね。映像も手ブレが使われていたりして楽しみです。けいおんっぽい感じになるんじゃないかとも思ったり。
自分も「変化」はこの作品の大きなテーマだと思いますし、どうアプローチしてどう描くのかに注目したいと思ってます!

こんにちは

このブログで散々言われていた大人云々の話がまるで伏線であるかのようにCMで出てきた時は思わず笑いました。
なんか今のところまさに超記憶術さんの読み通りに進んでますね(笑)

僕はテーマもそうですが何より映像が楽しみです。
たまこのTV版はあえてけいおんとは違ってコミカルで昭和アニメ的な空気感で作られてましたが
たまこの映画のCMでは全く打って変った空気管の演出になってました。
映画館であの映像でドラマ繰り広げてくれるだけでもうお腹一杯になりそうです。

テーマとして気になるところはやはり「変化」です。
変わるにせよ変わらないにせよ「変化」が中心になることは雑誌のインタビューでも間違いなさそうなんで
どこまで踏み込むのか、またはどこまで踏み込まずに表現するのか、といったところが楽しみです。

No title

>ふぁにぃさん
コメントありがとうございます
そうですね。けいおんの描いたモラトリアムの終わりはとても前向きで、まだ青春が続いていくことさえ示唆していたものでした。というか青春の繰り返しを描いてもいました
でも今回のたまこラは、はっきり「大人になる」を全面に打ち出している。同じモラトリアムの終わりを描くとしても、こっちはさらにワンステップ厳しい、リアリティのあるものになるだろうことが予感されます。それはきっと観客のこちらにも痛みを感じさせるものでしょう(まさに劇画オバQのような…)。まさに宇宙に乗り出していくような不安は否めません
しかしきっと収支はハッピーエンドになってくれる…と思っているので、楽しみに待ちたいと思いますw

No title

とても判りやすく解説頂いたので理解が深まりました
モラトリアムの中で描かれている青春に輝きや共感や癒しを得ていたからこそ
その後の「宇宙」に不安というか絶望に近いものを自分は感じていました
理想の世界が現実に近づく事によって変わってしまう事への恐れの様な

古い話ですが劇画オバQをちゃんと読んだ事はないのですが、その概要を
知った時の何ともやり切れない世知辛さを覚えています

女性作家(主に漫画家)の恋愛モノは甘々なムードの作風が多いという
古い先入観があるのですが、今作ではご指摘されている点からも
苦みがある内容になるのは必然ですね

ちょっとピントのズレた事を言いますと、恋愛というか大人になる一つの例として性愛を挙げられていましたが、男の場合その大部分において甘味な経験となる一方、女の子はメンタリティ等、色々な要素によって甘い経験だけにはならないだろうな、と
もちろん安易にセクシャルなシーンが挿入される事は期待してませんが

恋愛には痛みも伴う、けれども幸福もたらす…そうですね!
刻一刻と終わりが近づくモラトリアムの中で汗と涙で青春の花(バトン)を大きく咲かせて欲しい、そして初めて直面する痛みを乗り越えて幸福になって欲しい

たまこはヒロインというより、肉親みたいなイメージが強いのでそんな感情に至ってますw

コメントの投稿

Secret

DATE LOG
09 | 2017/10 | 11
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
ARCHIVE
ブログ内検索
管理人について

超記憶術先生

Author:超記憶術先生
元業界人(コミック系フリーライター)
Twitter:@SuperMnemonic

問うまい


我の深部にHTTが潜伏したる理由を


我も亦 知らぬなり


こういう管理人w

RSSフィード
"けいおん"特化型ファンブログです
けいおん関連情報&けいおん声優の情報、及び、管理人の感想、考察、イベントレポートをメインに記事を構成しています
山田尚子監督関係の作品記事も取り扱っております
けいおん大好き!!
山田監督大好き!!(笑)
最近の記事
カテゴリー
最近のコメント
リンク